はじめに
理系の大学生や大学院生に人気の業界の一つが製薬業界です。
ただし「製薬」という言葉自体は日常生活に馴染みがなく、業界について詳しく知らない学生も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では「製薬業界の特徴は何?」「製薬業界に向いている人はどんな人だろう。」などの疑問を解消していきます。
業界についてこれまで全く知識が無い人でもわかるように書いてあるので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
業界研究をする前に
製薬業界を知る前に、まずは業界を研究する目的を再度確認しておきましょう。
業界研究は会社に入るにあたって興味のある業界のビジネスモデルや企業、業務内容を理解する事も目的の一つです。
ただし最重要なことは違います。
真の目的は入社後のミスマッチを無くすことです。
そのためには業界の特性や職業が自分自身に合っているか、合っていないのかを確認しなければなりません。
なので自己分析も徹底して行う必要があります。自己分析の結果と業界を比較しながら読むことが大切です。
もし「業界研究のやり方がわからない」「業界研究の注意点を予め把握しておきたい」という人は以下の記事を先に読んでおきましょう。
製薬業界とは
まずは、業界研究の基本であるビジネスモデルから理解しましょう。
製薬業界の多くが医薬品を開発・研究しており医薬品メーカーと呼ばれています。
開発された医薬品は医薬卸会社に出荷された後、全国の病院や薬局へと届けられ診療にかかった私たちの元の手に渡る、という構造です。
医薬品メーカーから卸会社に渡るまでをもう少し詳しく説明すると、
①探索研究
②前臨床試験
③臨床試験I,II
④承認審査
⑤発売(卸会社へ)
という工程を踏んでいます。
製薬業界の概要
製薬会社のビジネスモデルの基本は、
①創った新薬の特許が切れるまで利益を独占
②特許が切れた後は後発医薬品として収益を長期にわたって確保していく
というものです。
利益を生み出すためには「新薬を生み出せるかどうか」が鍵となっており、ハイリスク&ハイリターンの構造だと言われています。
理由としては、医薬品開発は莫大な利益が見込める一方、1つの薬を開発するのに9~16年という長い期間が必要とされるからです。
そのうえ新薬となる化合物は25,000分の1とも言われています。
期待通りの成果を出せなければ開発が中止されることもある非常にシビアな世界とされています。
パテントクリフ(特許の壁)とは
新薬は発売された後、8〜10年間の独占販売期間があります。
独占販売期間が終了するとジェネリック医薬品が登場し、売上が急激に落ち込むのが特徴です。
売上の急激な減少はグラフの形からパテントクリフ(特許の崖)と呼ばれています。
製薬メーカーが新薬開発に取り組んでいるのは、パテントクリフを克服し継続的に成長していくためです。
製薬業界の基礎知識
製薬会社が開発する医薬品は大きく2つに分けられます。
医師の処方箋が必要で、薬局や病院で処方される医療用医薬品と、ドラッグストアや薬局などで売られる一般用医薬品です。
医療用医薬品は、これまでにない薬効を持つ先発医薬品と、先発医薬品の特許が切れた後に製造される後発医薬品の2つに分けられます。
それぞれ詳しく解説していきますね。
医療用医薬品
医療用医薬品は医師の処方箋に基づき、薬剤師が調剤して渡される薬のこと。
特徴としては効果が高い一方で副作用に注意が必要な点です。
ただし医師と薬剤師に二重チェックされているので、患者ごとの症状や体質に合った薬が選ばれています。
一般用医薬品
薬局やドラッグストアなどで購入できるのが一般用医薬品です。
医療用医薬品よりも薬の有効成分の含有量が少なくなっています。
理由としてはどのような年代や体型の人が使用するかわからないため、安全性を最も重要視しているからです。
先発医薬品
新薬とも呼ばれています。
新薬は9〜16年もの長い研究開発期間をかけ、新しい成分の有効性や安全性が確認された後に厳しい審査を通過、承認を受けた医薬品です。
かかる費用は数百億から数千億円にもなります。
しかし発売後は特許を取得し市場を占領できるので莫大な資金回収が可能な医薬品です。
後発医薬品
ジェネリック医薬品とも呼ばれています。
新薬の独占販売期間が終わった後、新薬と効き目が同等であることが証明された医薬品のことです。
特徴はどの製薬企業でも製造販売することができる点にあります。
開発期間や費用は新薬に比べて有利な一方、販売価格がとても低いので利益が出しにくい医薬品です。
製薬業界の売上高ランキング
製薬業界の売上高ランキングは上図の通りです。
1位に武田薬品工業、2位に大塚HD、3位にアステラス製薬が続きます。
売上高は武田薬品工業が2位以降を大きく突き放してトップです。
武田薬品工業が断トツで1位なのは2019年にアイルランドのシャイアーを買収した経緯にあります。
実は製薬業界はこれからは海外市場を開拓できる企業が勝ち抜く業界でもあるのです。
製薬業界の現状と今後の動向
業界研究をする上で業界の将来性について知ることはとても重要です。
せっかく新卒で入社した業界でも未来がなければ、年収が伸び悩んだり解雇される可能性もゼロではありません。
現状と今後の変化に注目して説明していきます。
現状
日本は高齢化社会が進んでいるため国民全体の医療負担が年々増加している現状があります。
そのため将来を見据えて今のうちに可能な限り医療費を抑えておくことが望まれているのです。
国は医療費抑制のために
- 継続的な薬価引き下げ
- 薬価の低いジェネリック医薬品の推進
などを行っています。
つまり日本社会の課題はそのまま製薬業界にとって非常に重い課題となってのしかかっているのです。
薬価が下げられると新薬開発の恩恵を十分に受ける事ができません。
パテントクリフで特許が発行されている期間は20年間と決められているので厳しい状態になっていきます。
よって新薬を創出しても研究開発費の回収ができず採算がとれない場合も考えられるでしょう。
またジェネリック医薬品は薬価が低い水準に抑えられてしまうため、利益につながりにくいです。
以上のことから潤沢な開発費用がない会社はこれからどうやって生き残っていくかを模索していく必要があると言われています。
今後の動向
先ほどお話したように日本は政府が医療費を削減しようとしているため、成長を続けていくには困難とされています。
ここで解決策の一つとしては製薬以外の分野との両立です。
例えば海外市場の開拓、医療診断や予防、デジタル機器との連携治療などが挙げられます。
特に海外市場への進出は製薬業界全体でトレンドです。
上位製薬メーカーのほとんどは海外販売にシフトし全体の売上高の半分以上を海外に依存しています。
また積極的にデジタル化が進んでる領域は、中枢神経領域、認知症・介護、糖尿病などです。
糖尿病の治療用アプリはアステラス製薬をはじめとした3社が開発に取り組んでいます。
日本の医薬品メーカーは選択と集中に迫られており、事業交換や事業売買を積極的に行う流れはしばらく続いていくでしょう。
変化していく業界だからこそ一社一社の将来について注視していく必要があります。
製薬業界の仕事内容
製薬業界の全体像が分かったら実際の仕事内容を見ていきましょう。
どの企業にもある3つの職種を紹介します。
自己分析の結果と比較しながら、自分にあった職種を探してみて下さいね。
MR
MR(Medical Representative)は医薬情報担当者と和訳される職業です。
自社製品を患者さんに役立ててもらえるよう、医療機関へ安全性など各種データの提供を行います。
そして最終的には自社の薬を選んでもらい、売上につなげることが目的です。
いわば営業のような役割を果たします。
またMRは製薬業界では珍しく半数が文系出身者の職業です。
最後まで諦めない粘り強さや、幅広くそして深く製薬を理解する知的好奇心がある人には向いていると言えるでしょう。
研究職
研究職は実験や分析をする職種です。
製薬会社の研究職に就くためには、理系の修士もしくは博士の取得が必要である場合がほとんどです。
また一口に研究と言っても、薬の合成実験ならびに結果の分析、新薬の成分分析など様々なジャンルがあるのです。
大学で勉強してきた分野などと照らし合わせて興味のある分野を選ぶのが良いでしょう。
具体的な研究スタイルは大学の研究室と同じように数人一班で進めていく形です。
理系の大学の研究室の様子を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。
専門的な研究が好きな学生は詳しく調べておくのがおすすめです。
開発職
開発職は臨床試験などを行い、製品開発をする職種です。
製薬会社の中でも人気の職業であり、難易度もかなり高いと言われています。
開発職もまた理系の修士もしくは博士の取得が必要である場合がほとんどです。
開発職は、臨床試験と言われる発売前の医薬品を人に投与するのがメインの仕事で、別名は治験と言われています。
臨床試験の厳しい審査には患者だけではなく病院内外の様々な関係者が立ち合うため、コミュニケーションが非常に重要です。
なので理系の知識や学歴だけでは目指すのが難しい職業とされています。
製薬業界に向いている学生
製薬業界の構造や仕事内容について理解できたでしょうか。
ただここまで聞いても「業界や仕事が自分に向いているのかどうかはまだわからない。」と思う人も多いでしょう。
そこで、製薬業界に向いている人の特徴を3つ紹介していきます。
- 好奇心がある
- 体系立てて人に伝える
- 倫理観が強い
それぞれ、解説していきますね。
好奇心がある
医薬品の情報はとてつもなく広く深いです。
しかし人の命に関わるので情報には精通していなければなりません。
薬の効能や副作用について知っているだけではなく、医療関係者と話をするための幅広い知識が必要です。
そのため好奇心旺盛でどんどん新しいことを学ぶ意欲のある学生に向いているでしょう。
体系立てて人に伝える
特に文系の学生でも志望できるMRは、医薬品の有用性や安全性等を医療従事者等に説明する仕事です。
医薬品に関する事柄について詳しく理解するだけでは、病院などで扱ってもらえません。
そこでわかりやすく物事を体系化して伝える力が求められます。
普段から感覚で理解するのではなく、論理的に順序立てて具体的に理解するよう意識することが大切です。
倫理観が強い
製薬業界はどの企業も人の命に関わる事業に取り組んでいます。
なので国の規制や法令は必ず守って仕事をしているのです。
しかし一方で製薬企業からの医療機関や厚生労働省などへの賄賂の防止と公正競争の維持もまた業界内の課題とされています。
企業全体が倫理観やコンプライアンスの、もとに運営されているとはいえ社員一人一人が強い倫理観を持っていなくてはなりません。
たとえ自分の仕事に不都合なことがあっても上司や取引先に報告するなど、とにかく誠実な姿勢が求められます。
まとめ
以上で、製薬業界についての解説は終わりです。
私たちが生きる上で欠かせない「薬」に携われることから非常にやりがいのある仕事といえるでしょう。
MRなど多くの人と関わる職種もあることからコミュニケーションを重視する点に魅力を感じた方もいるのではないでしょうか。
しかし、業界全体では国が医療費の削減を行っていたり、パテントクリフなどまだまだ課題があるのも事実。
注目している会社は、業界内でどのようなポジションをとっているのか目を向けてみると良いでしょう。
自分自身の性格や、もともと関心のある分野も考えながら企業のことを調べていくのがおすすめです。
最後にまだ自己分析に不安がある人は以下の記事もぜひ読んで見てくださいね。
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